第17回実践化学工学講座

第1章 反応工学

(午前)講師:三浦 孝一[京都大学大学院工学研究科 教授]
講義内容
反応工学の目的は「化学反応装置の合理的な設計と運転」にあります.その目的達成のためには,化学反応と速度に対する理解,反応の量的関係
を記述する量論関係に対する理解,それらを総合した反応装置を設計するための設計方程式に対する理解が求められます.
本講義では,反応工学の基礎事項として,①連続槽型反応器(CSTR),押し出し流れ反応器(PFR)と呼ばれる理想流れ反応器に対する物質収支式
とエンタルピー収支式の定式化法,②複合反応の量論関係と反応速度の定式化法と速度解析の方法,③気固触媒反応解析の基礎について解説した
後に,合成ガスからメタノールを合成する固定層型気固触媒反応装置を例にとり上げて,設計方程式を定式化する方法を順を追って説明します.付録
にはBASICで作成したプログラムを添付し,設計方程式を解く具体的な方法も紹介します.簡単な微分方程式の知識が必要ですが,それ以外には初歩
の物理化学の知識があれば十分理解できるように説明します.

(午後)講師:古尾谷逸生[元武田薬品工業㈱,化学・環境技術コンサルティングLtd.]
講義内容
基礎研究の成果を工業化していく段階で,企業における化学研究者・技術者に求められる役割とは「与えられた問題を単に解くのではなく,自ら問題
を作成する」ことが重要であり,「ChemistはEngineeringを,EngineerはChemistryを理解する」必要があることをまず述べる.
ついで,問題作成の事例として,医薬品バルクを始めとするファインケミカルズ製造プロセスの設計思想,スケールアップ方法論,留意点を詳述する.
最後に,グローバルな環境問題解決において,化学研究者・技術者がどのような形で貢献すべきかを,塩素系化合物の完全無害化を事例にとり,
平易に解説する.

(基礎理論編) 
 1.1 反応工学の目的 
 1.2 メタノール合成反応器の設計 
  1.2.1 装置設計の前提条件 
  1.2.2 設計方程式 
  1.2.3 設計計算の例 
 1.3 おわりに 
 付録 メタノール合成反応器(多管触媒反応器)設計用プログラム 
(参考資料) 
 1.4 複合反応 
  1.4.1 複合反応の量論関係と反応速度 
  1.4.2 複合反応の設計方程式 
  1.4.3 収率と選択率 
  1.4.4 複合反応の設計・操作 
 1.5 固体触媒反応 
  1.5.1 固体触媒反応器設計の考え方 
  1.5.2 粒子外部境膜内の物質移動 
  1.5.3 触媒粒子内の物質移動 
  1.5.4 触媒有効係数 
  1.5.5 濃度CAbによるみかけの反応速度の表現 
  1.5.6 いずれかの速度過程が律速段階の場合の(-rAm)App* 
  1.5.7 固体触媒反応の設計方程式 
  1.5.8 固体触媒反応の速度解析 
(応用編) 
 1.6 ファインケミカルズ製造プロセス開発担当および
現場ケミカルエンジニアーに役立つ反応工学 
 1.7 農薬中間体(OMA)製造技術工業化の実例(プロセス技術開発の手順) 
  1.7.1 反応操作,装置 
  1.7.2 反応熱 
  1.7.3 反応器スケールアップ 
  1.7.4 装置形式・材質の選定 
  1.7.5 触媒体設計 
  1.7.6 スケールアップに関するその他の留意点 
 1.8 医薬バルク(原薬)製造プロセス技術開発の実際 
  1.8.1 原薬製造プロセス技術開発の手順 
  1.8.2 経済的プロセスより優先する事項 
  1.8.3 原薬製造プロセスのスケールアップ 
 1.9 FC製造プロセスに関連した環境対策としての排ガス処理技術 [環境基準に沿った
    ジクロロメタン(塩化メチレン)のon-site無害化処理技術開発事例] 
  1.9.1 背景・設計前提 
  1.9.2 工業的に最も有利と考えられる接触分解法で,ジクロロメタン2%(vol)含有空気
     (ジクロロメタンとして1000t/y)処理プロセスの設計 

第2章 蒸留

(午前)講師:塩井 章久[同志社大学理工学部教授]
講義内容
気液平衡の原理と分離操作としての蒸留の基本について,講義する.講義レベルとしては,理工系出身であるが,化学工学を全く,あるいはほとんど
学んだことがない受講者を対象としている.まず,気液平衡について物理化学的な説明を行い,混合溶液系の蒸気圧の計算について講義する.
その後,主として理想溶液系を対象として,単蒸留,フラッシュ蒸留,および精留塔の計算について講義する.単蒸留では,留出液と缶残液の組成の
時間変化の計算方法を,Rayleighの式を用いて説明する.精留塔については,McCabe-Thieleの図解法による理論段数の計算,さらに,最小還流比,
最小理論段数について説明する.McCabe-Thieleの図解法については,演習を行いながら,その方法に習熟することを目指す.

(午後)講師:野田 秀夫[関西化学機械製作㈱ 代表取締役社長]
講義内容
実習では①連続と②回分操作の2種類のシステムを体験していただく予定です.それらの特徴と使用範囲などを説明します.次に使用される主要機器
の解説をします.①塔本体,②塔に内装される気液接触用の充填物またはトレイ,③実際に使用するトレイと充填物について,④塔頂で蒸気を凝縮する
コンデンサー,⑤蒸留塔に蒸気を供給する数種類のリボイラーの比較,⑥熱回収のための熱交換器などの補助装置について説明します.
最新の省エネルギー型の蒸留システム(HIDiC)および回分操作でチェンジトレイを使用して始めて可能になった省エネ+省時間についても少し触れた
いと思います.

(基礎理論編) 
 2.1 気液平衡 
 2.2 単蒸留 
 2.3 フラッシュ蒸留 
 2.4 連続蒸留 
 2.5 その他の蒸留 
 (実習編) 
 2.6 はじめに 
 2.7 基本装置 
  2.7.1 塔(TowerまたはColumn) 
  2.7.2 充填物(Packing) 
  2.7.3 棚またはトレイ(Tray) 
  2.7.4 塔径の推算 
 2.8 リボイラー 
 2.9 コンデンサー 
 2.10 熱交換器 
 2.11 基本的な操作 
  2.11.1 回分操作 
  2.11.2 連続蒸留の操作 
 2.12 最近の蒸留 
  2.12.1 HIDiC(内部熱交換型蒸留塔) 
  2.12.2 ウォールウェッターとWW蒸留プラス 
  2.12.3 チェンジトレイ 
 2.13 実習について 

第3章 晶析

(午前)講師:須藤 省吾[住友化学㈱生産技術センター 主席研究員]
講義内容
晶析操作は分離精製技術の一つとして古くから利用されていますが,最近では機能性素材の開発や高度分離技術の観点からも広く注目されている,
重要な単位操作の一つです.本講座では,溶液からの晶析操作を中心に,下記事項について解説します.
(1)晶析現象に関する基礎事項
(2)晶析現象の平衡論、速度論的取り扱い
(3)工業晶析に関する基礎事項(操作、粒径・分布の制御、多形選択晶析、他)
(4)工業晶析操作、装置の種類とその設計法
(5)スケールアップ、スケールダウンの考え方
また,本講座では,晶析という一つの単位操作を通じて,化学工学に共通する考え方や事象へのアプローチ法などについても適宜言及します.具体的
課題を抱えておられる研究者,技術者の方など化学工学領域で活躍されている方はもちろんのこと,化学工学的アプローチに興味をお持ちの方など,
これから種々の領域において活躍されることを期待されまた自らそう願われている方の参加を期待します.

(午後)講師:加々良耕二[大原薬品工業㈱医薬開発研究所 所長]
講義内容
所望の結晶形を安定的に生産スケールで製造することは医薬品製造において,極めて重要なことである.晶析操作のスケールアップでは,今までにない新しい結晶形が出現したり,不要な結晶形が混入したり,小実験と異なった現象に直面することが多い.しかし,晶析挙動を注意深く解析すれば,多くの場合これらの現象を理解することができる.そこで,スケールアップを目的とした基礎データの取得とそれらのデータの実生産規模への展開について,いろいろな事例を挙げながら実践的に紹介する.
事例としては,
1.溶媒媒介転移を抑制して,不安定形を製造する場合
2.安定形に不安定形が混入する場合
3.安定形,準安定形,不安定形の3種の結晶形から準安定形を製造する場合
についてとりあげる.

(基礎編) 
 3.1 はじめに 
 3.2 物質の溶解度と溶解度線図の決定 
 3.3 晶析現象の基本的な考え方 
 3.4 核化 
 3.5 成長 
 3.6 粒度分布の考え方 
(応用編) 
 3.7 はじめに 
 3.8 医薬品製造における晶析操作 
  3.8.1 不純物分離 
  3.8.2 製品特性制御 
  3.8.3 スケールアップ 
 3.9 溶媒媒介転移を抑制し不安定形を製造する場合 
  3.9.1 溶媒媒介転移の挙動 
  3.9.2 スケールアップ実験 
 3.10 安定形結晶に不安定形が混入する場合 
  3.10.1 擬多形結晶の特性 
  3.10.2 C形晶晶析条件の設定 
  3.10.3 スケールアップ 
 3.11 安定形,準安定形,不安定形の3種の結晶形から準安定形の製造法 
  3.11.1 BBTUの特性及びトルエン中での挙動 
  3.11.2 B形晶の晶析条件設定 
  3.11.3 スケールアップ実験 
 3.12 結晶形状変換を利用した結晶特性の改善 
  3.12.1 操作因子と結晶形状 
  3.12.2 結晶特性の比較 
  3.12.3 スケールアップ実験 
 3.13 おわりに 

第4章 吸収

(午前)講師:三宅 義和[関西大学環境都市工学部 教授]
講義内容
ガス吸収操作は蒸留操作に次いで多用されている単位操作である.ガス吸収に用いられる充填塔など吸収塔においては,塔内が非平衡状態にあることが蒸留や抽出装置と大きく異なる点である.つまり塔内での物質移動速度過程が塔性能に大きく影響する.この事を定量的に考察するための基本的な考え方を説明する.また物質移動速度の定量的な取り扱いはガス吸収操作に限らず,例えば粉体の溶解速度,液液抽出系での抽出速度および異相反応系での総括反応速度の考察などにおいて,基本的でかつ重要である.
以上のことを踏まえて,以下の内容について演習を交えて講義する.
1.気液平衡関係;ヘンリーの法則,液相で化学反応が起こる場合の気液平衡
2.物質移動速度の定量化;フィックの第一・第二法則,境膜モデル,二重境膜モデル
3.充填塔の設計問題(塔高,塔径)
講義レベルは,基礎的な物理および化学の知識があれば充分に理解できる内容である.また,物質移動速度の諸問題をより深く定量的に考察したい場合は微分方程式などの数学的知識が不可欠であるが,本講義では数学の結果を利用するという立場で行うので数学に弱い人でも理解できるはずである.

(午後)講師:田村 善継[月島環境エンジニアリング㈱充填物機器部 マネージャー]
講義内容
充填塔を用いたガス吸収塔の設計講座
内容
・充填塔・充填物入門
・各産業における吸収操作/放散操作の事例説明
・物質移動の基本概念(HTU・NTUとは)
・充填物(テラレット)を使用した塔径の算出方法(ローディング・フラッディングとは)
・解離を伴う気液平衡
レベル
講習内容は,充填塔の基本的な設計方法が主となります.
初めて充填塔を設計する方・既設充填塔の運転変更などを考えているが方,など初心者から中級者程度の内容となっております.

 4.1 気液平衡関係 
  4.1.1 濃度表現とヘンリーの法則 
  4.1.2 反応吸収系での気液平衡関係 
 4.2 ガス吸収速度を表わす二重境膜モデル 
  4.2.1 拡散方程式 
  4.2.2 拡散方程式の分子論的考察 
  4.2.3 各座標系でのFickの第二法則 
  4.2.4 種々の系での拡散速度・・・拡散方程式の解 
  4.2.5 異相系での拡散速度を表わす二重境膜モデル 
 4.3 充填塔の設計方程式 
  4.3.1 充填塔での物質収支式(操作線の方程式) 
  4.3.2 充填塔の塔高を求める基礎式 
 4.4 各産業における吸収/放散の事例 
 4.5 希薄条件下でのHTUとNTUの計算 
  4.5.1 希薄条件下でのHTUとNTUの誘導 
  4.5.2 二重境膜説に基づくHOGおよびHOL 
  4.5.3 NOGおよびNOL 
  4.5.4 最小必要液量,最小必要ガス量 
 4.6 HTUの計算法および事例について 
  4.6.1 テラレットのHTU 
  4.6.2 HTU計算式およびモデル 
 4.7 塔径計算 
 4.8 解離を伴う気液平衡 
  4.8.1 分圧の求め方の手順 
  4.8.2 酸性ガスのアルカリ水溶液による吸収,放散 
  4.8.3 塩素ガスの吸収 
  4.8.4 アンモニアの吸収 
  4.8.5 二成分ガスの吸収 

第5章 吸着

(午前)講師:吉田 弘之[大阪府立大学21世紀科学研究機構特認 教授]
講義内容
吸着現象は一見難しいように見えるが,入ってみれば非常に興味深い現象である.ここでは,その基礎を身近な例を織り交ぜながらわかりやすく以下に示す順序で講義する.
 (1) 吸着はなぜ起こるかを,様々な吸着現象について物理,化学,化学工学の観点から解説するとともに,ここでは特に固体吸着剤,イオン交換樹脂についてのみ講義する意味を説明する.その後,代表的な固体吸着剤の特性と用途について概説する.
 (2) 吸着平衡,イオン交換平衡について説明した後,代表的な吸着等温線の分類,吸着平衡式の理論を解説する.
 (3) 吸着速度を流体境膜および粒子内拡散について説明する.粒子内拡散では,粒子を均質体とみなす場合,細孔が存在する場合の細孔拡散,細孔の表面を拡散する表面拡散などについて説明する.
 (4) 典型的な実操作として,回分吸着(バッチ吸着)と固定層吸着を取り上げ,簡単な理論を用いて設計計算ができることを示す.
 (5) 近年,広範囲に用いられるようになった圧力スイング吸着,クロマトグラフィー分離,擬似移動層分離などについて,その原理を解説する.

(午後)講師:茨木  敏[エア・ウォーターベルパー㈱営業・マーケティング部 部長]
講義内容
吸着材料はIT,自動車,家電,環境関連等の産業で用いられており,最終製品の性能を大きく左右する主要部材となることが多い.従って吸着材料の技術進歩は,これら他産業の技術を牽引するといても過言ではない.
 演者は様々な産業分野の方と協力し,炭素系吸着材の開発,製造,市場開拓に携わってきた.本講演ではこれらの経験を生かし,吸着材の基礎と応用,その製造方法,現状の課題等について述べる.
現在のような景気低迷,途上国の追い上げの中で日本の化学産業が今後もその競争力を維持するためには,環境・省エネ分野に注力することが重要である.ここでは,これらと深く関わる以下3点を中心に紹介する. 

1)分子篩炭素とPSA式窒素ガス発生装置 
⇒厳密な細孔径制御による窒素/酸素分子篩の例
2)溶剤回収用・浄水器用活性炭
⇒一般的吸着材の例 
3)電気二重層キャパシタ用電極材
⇒細孔径,表面化学特性,粒子形状制御の例

 5.1 はじめに 
 5.2 吸着は何故起こるか 
 5.3 吸着材 
 5.4 吸着等温線の種類 
 5.5 吸着平衡式 
 5.6 吸着速度 
 5.7 回分吸着(バッチ吸着) 
 5.8 固定層吸着 
 5.9 圧力スイング吸着 
 5.10 クロマトグラフィー分離 
 5.11 圧力スイング吸着(Pressure Swing Adsorption)法のガス分離への応用 
  5.11.1 はじめに 
  5.11.2 圧力スイング吸着(PSA)とは 
  5.11.3 圧力スイング吸着(PSA)による空気分離 
  5.11.4 分離材の種類・形態と用途 
  5.11.5 MSCの工業的製造法 
  5.11.6 MSCの細孔解析 
  5.11.7 MSCの窒素,酸素吸着特性 
  5.11.8 PSA式窒素ガス発生装置の構成と操作サイクル 
  5.11.9 PSA式窒素ガス発生装置の利用分野 
 5.12 吸着分離操作の溶剤回収への応用 
  5.12.1 化学物質の排出について 
  5.12.2 粒状活性炭を用いた固定層溶剤回収装置 
  5.12.3 活性炭繊維を用いた溶剤回収装置 
  5.12.4 固定層吸着における破過時間と吸着帯 
 5.13 吸着分離操作の浄水(トリハロメタン除去)への応用 
  5.13.1 トリハロメタンについて 
  5.13.2 浄水によるトリハロメタンの除去 
 5.14 活性炭のキャパシタへの応用 
  5.14.1 キャパシタについて 
  5.14.2 キャパシタの形状・構成と用途 

第6章 粉粒体操作・貯蔵・ろ過・集じん 

(午前)講師:森  康維[同志社大学理工学部 教授]
講義内容
粉粒体操作は多岐にわたり,1日の限られた時間では基礎から応用まで網羅することは困難である.そこで午前中と午後の一部を用いて,粉粒体を取り扱う基礎的な知識を教授し,いくつかの演習で理解を深める構成とした.
午前中には,粉粒体を構成する個々の粒子の大きさの定義を明らかにし,それらが集合した粉粒体としての大きさを表現する手法を述べる.すなわち,集合体を構成する粒子の大きさの平均値(平均粒子径)や,大きさの広がり(分布の幅,例えば幾何標準偏差)について解説し,粒子径の測定方法や表現方法が異なると,同じ集合体でもそれらの値が異なることを明らかにする.
次いで,流体中での1個粒子の運動を表現する式(粒子の運動方程式)を導出し,重力場や遠心力場下での粒子の運動を述べ,これらの結果は粒子の沈降や分散状態を把握することに役立つことを示す.さらに2つの粒子間に働く力として,静電気力,ファンデルワールス力,液架橋力を取り上げ,午後の粉体層力学に関する基礎知識を与える.最後に粒子径が小さくなり,粒子のブラウン運動が支配的となるような状態での粒子の拡散・凝集現象について解説する.

(午後)講師:遠藤 禎行[住友化学㈱生産技術センター 上席研究員]
講義内容
化学プロセスなどで取扱う物質の状態は,気体,液体および固体のいずれかであるが,その中で固体は粒子状物質として気体や液体中に分散して存在する.粒子が介在すると,その現象は粒子の種類によって多種多様で複雑になり,取扱いは厄介なものになる.
午後の前半では,午前の一個の粒子に着目した基礎知識を粒子層(粉体)に展開して,①気体や液体とは異なる粉体の基礎的特性(粒子充填状態,引張りやせん断などの力学的強度),②貯槽内の粉体圧と貯槽からの粉体の排出,③粒子充填層を通過する流体の抵抗(圧力損失)と粒子充填状態の関係などの基礎的事項に重点をおいて,現象観察の例示や演習を交えて解説し,複雑な粉体操作に対して科学的に対応できる素地づくりを目指す.
後半では,粉体操作の中でニーズの高い「ろ過」と「集じん」を取上げ,それらの原理と理論(たとえば,Ruthの式,ろ過比抵抗の物理的意味など)について講義し,ろ過面積やろ過時間を決定するなどの工業的な取扱いについて解説する.

 6.1 粒子の大きさと形 
  6.1.1 代表粒子径と粒子径測定法 
  6.1.2 粒子径分布(粒度分布) 
  6.1.3 平均粒子径 
 6.2 単一粒子の運動 
  6.2.1 単一粒子の運動方程式と流体抵抗 
  6.2.2 重力場・遠心力場下での運動 
  6.2.3 ブラウン運動と粒子拡散係数 
 6.3 2粒子間相互作用 
  6.3.1 液架橋力 
  6.3.2 ファンデルワールス(van der Waals)力 
  6.3.3 静電気力 
 6.4 粒子分散系の性質 
 6.5 粒子層の性質 
 6.6 粒子層の強度 
  6.6.1 引張強度 
  6.6.2 せん断強度 
 6.7 貯槽内の粉体圧 
 6.8 貯槽からの排出 
 6.9 粒子充填層を通過する流体抵抗 
 6.10 ろ過 
  6.10.1 ろ過の基礎式 
  6.10.2 遠心ろ過 
 6.11 集塵 
  6.11.1 集塵装置の圧力損失と粒子捕集性能 
  6.11.2 サイクロン 
  6.11.3 バグフィルター 
  6.11.4 エアーフィルター 

第7章 流動・伝熱 

(午前)講師:大村 直人[神戸大学大学院工学研究科 教授]
講義内容
化学プロセスを支配する運動量(流動),エネルギー(熱)の移動の原理を相似則の観点から解説し,これらの移動原理に基づき,流動と伝熱の基礎となる流体摩擦係数と圧力損失,力学的エネルギー収支,伝熱抵抗の考え方と伝熱係数などを初学者にもわかりやすく解説することで,簡単な配管設計および,二重管式熱交換器の設計が行えるようにする.
1.ニュートンの粘性の法則
2.運動量,エネルギー,物質移動の相似性
3.層流と乱流
4.流体摩擦係数
5.力学的エネルギー収支とベルヌーイの式
6.伝熱機構とフーリエの法則
7.伝熱抵抗の考え方と伝熱係数
8.総括伝熱係数と対数平均温度差
9.二重管式熱交換器の設計

(午後)講師:辻中 正博[㈱カネカ高砂工業所工場革新 チームリーダー]
講義内容
企業での化学系研究者や技術者が,現実の制約条件の中で仕事をするためには,①その分野の基本項目となる基礎理論を理解し,応用するための基本的な知識を身につけており,②必要が生じたときに実際に応用できることが重要となる.基礎理論では流動・伝熱の実用に必要な基本項目を順序良く一覧する.応用編では反応装置システムを題材とした実践的な演習を通して,基礎理論を応用した計算の実際に触れる.演習の内容は,化学系企業での具体例としてバッチ式反応槽に新たな攪拌翼を用いることを想定し,攪拌槽内の伝熱性能推算,送液ポンプの所要動力及び冷凍機の必要能力を求める.特に,伝熱性能の推算では,実験装置を用いた模擬実験によるデータの取得から,取得データの解析方法,実機の伝熱性能の推算,反応器内の伝熱コイル面積の推算に至るまでの一連のプロセスを実際の演習を通して解り易く解説する.

(流動編) 
 7.1 流体と流れ 
 7.2 乱流と層流 
 7.3 管内流の速度分布 
 7.4 流体摩擦係数 
  7.4.1 層流の流体摩擦係数 
  7.4.2 乱流の流体摩擦係数 
 7.5 エネルギー収支 
  7.5.1 円管内の流体輸送に要する動力の計算 
  7.5.2 管路の変化および挿入物,付属物による損失の求め方 
(伝熱編) 
 7.6 伝導伝熱 
  7.6.1 フーリエ(Fourier)の法則 
  7.6.2 円管壁と多層壁の熱伝導 
 7.7 対流伝熱 
  7.7.1 境膜伝熱係数 
  7.7.2 総括伝熱係数 
 7.8 熱交換器 
  7.8.1 平均温度差 
 7.9 蒸発装置 
  7.9.1 状態変化をともなう伝熱 
  7.9.2 沸騰伝熱 
  7.9.3 凝縮伝熱 
  7.9.4 蒸発缶 
  7.9.5 多重効用蒸発缶 
 7.10 ふく射伝熱(放射伝熱) 
  7.10.1 黒体 
  7.10.2 黒度 
  7.10.3 二物体間のふく射授受 
  7.10.4 ガスふく射 
  7.10.5 輝炎または微粉炭炎からのふく射 
 7.11 実践的演習 

第8章 攪拌・混合 

(午前)講師:平田 雄志[大阪大学名誉教授]
講義内容
撹拌・混合は,汎用の工業プロセス操作であり,均一化,分散,ガス吸収,溶解,反応,伝熱など多様な目的に使用されています.本講座の午前の部では,この操作の基礎的な内容を以下の項目に従って演習を交えながら講義します.
1 撹拌操作論の基礎:回分式,流通式撹拌槽に関する物質収支式,エネルギー収支式の立て方.完全混合槽モデルに基づいた簡単な収支式(微分方程式)の導出.その解を利用した反応,伝熱,物質移動操作の設計と性能評価.
2 撹拌装置の基本事項:低粘度液用と高粘度液用の撹拌翼の違い,翼形状・設置位置と流動パターンの関係,邪魔板の役割,撹拌レイノルズ数とフルード数の定義.
3 撹拌所要動力:撹拌動力に影響を与える因子と動力数の定義,線図・相関式を用いた撹拌所要動力の算出,非ニュートン流体の撹拌所要動力の算出.
4 流体混合:動力数,吐出流量係数を用いた混合時間の算出,混合性能の評価.
5 スケール・アップ:条件設定と操作因子の関係.

(午後)講師:亀井  登[ダイセル化学工業㈱プロセス開発センター 所長]
講義内容
午後の演習の部では,この操作の実操作や設計に関わる実践的な内容を,以下の項目に対して例題を中心に演習を交えながら講義します.
1 実践的な知識として,実装置における撹拌機モーターからの動力の伝播メカニズムやモーター動力設計方法など.
2 具体的な撹拌所要動力の算出方法,混合時間に着目した効率的な撹拌翼の設計.
3 固液系の固体分散のメカニズムと,物質移動促進に関わる設計のポイント.
4 液液系の分散のメカニズムと,スケールアップ方法.
5 気液系のガス分散並びに物質移動に関わるメカニズムとその設計のポイント.
6 高粘度液撹拌の撹拌動力の算出並びに非ニュートン流体の取扱い.

 8.1 攪拌操作論の基礎―完全混合槽モデル 
  8.1.1 反応操作 
  8.1.2 伝熱操作 
  8.1.3 物質移動操作   
 8.2 攪拌装置に関する基本的事項 
  8.2.1 攪拌翼の形式 
  8.2.2 攪拌翼の位置と流動パターン 
  8.2.3 吐出流量と循環流量 
  8.2.4 攪拌レイノルズ数 
  8.2.5 フルード数 
 8.3 攪拌所要動力 
  8.3.1 力、仕事、動力の関係 
  8.3.2 力、トルク、動力の関係 
  8.3.3 動力数 
  8.3.4 動力線図 
  8.3.5 動力数の相関式 
  8.3.6 非ニュートン流体の攪拌所要動力 
 8.4 流体混合 
  8.4.1 吐出流量数 
  8.4.2 混合時間 
  8.4.3 混合性能の評価 
 8.5 スケールアップ 
(実践・演習) 
 8.6 攪拌装置設計/操作事例 
 8.7 実践演習の予備知識 
 8.8 混合時間の問題 
 8.9 固液攪拌の問題 
 8.10 液液攪拌の問題 
 8.11 気液攪拌の問題 
 8.12 層流域における動力の問題 

第9章 プロセス制御

(午前)講師:加納  学[京都大学大学院工学研究科 准教授]
講義内容
流量制御や温度制御を何気なく実務で使っているが,きちんと「プロセス制御」を勉強したことがないという技術者を対象に,プロセス制御の基礎を伝授します.プロセス制御の基礎を身に付けたと言えるためには,1)現在でも適用件数の90%以上を占めるPID制御の仕組みとその調整方法,2)制御系設計の基礎となるプロセスのモデル化方法,を習得しなければなりません.本講では,フィードバック制御を中心とするプロセス制御で必須の基礎用語,伝達関数やブロック線図などの制御工学特有の基礎知識,プロセスのモデル化方法,PID制御の仕組みと調整方法を解説します.これだけ知っておけば90%は大丈夫という内容で,最小限の勉強で最大限の効果を目指します.思い切って言えば,制御したいプロセスを,一次遅れ,二次遅れ,積分,および無駄時間の組み合わせでモデル化し,定常偏差なく,振動させずに,制御変数を設定値に維持できるPIDコントローラが設計できれば良いのです.これらを受講者が自分でできるようになることが本講の目的です.

(午後)講師:轡  義則[住友化学㈱生産技術センター上席研究員 グループマネージャー]
講義内容
本講座の後半では,プロセス制御が実際の企業活動の中でどのように活用されているかを理解してもらうため,まず,その目的,方式・手法(ソフト面),装置・計器(ハード面),コンピュータシステムなど,基礎知識全般について一通り学ぶ.次に,前半の講義で理論面を学んだ制御技術について,化学プロセスの各要素を対象とし,実際面から基本的な使い方を学習する.その際,簡単なモデルを組み込んだシミュレータ上で様々なケースを試行しながら制御応答を確認して,制御の効用やパラメータ調整の難しさを体験する.具体的なプロセスの例として蒸留塔を取り上げ,その制御の問題点,基本的な制御系,高度な制御手法などについて学ぶ.最後に,演習問題で,制御ループの設計や制御上のトラブルシューティングに挑戦することでさらに理解を深める.受講対象は,化学工学や制御工学の基礎知識やそれに関連した実務経験があればよいが,なくても理解できるように,実例を交えながらできるだけわかりやすく説明する予定である.

 9.1 プロセス制御の概要 
  9.1.1 プロセス制御の役割 
  9.1.2 フィードバック制御 
  9.1.3 フィードバック制御系の構成 
  9.1.4 フィードバック制御系の設計問題 
 9.2 プロセスモデルの構築 
  9.2.1 物理モデルとブラックボックスモデル 
  9.2.2 状態変数と状態方程式 
  9.2.3 線形化 
 9.3 伝達関数と過渡応答 
  9.3.1 ラプラス変換 
  9.3.2 伝達関数 
  9.3.3 プロセスの過渡応答 
  9.3.4 1次遅れ要素 
  9.3.5 積分要素 
  9.3.6 むだ時間要素 
  9.3.7 2次遅れ要素 
  9.3.8 高次遅れ要素 
  9.3.9 極と過渡応答 
  9.3.10 ブロック線図 
 9.4 運転データからのモデル構築 
  9.4.1 1次遅れ要素のモデリング 
  9.4.2 1次遅れ+むだ時間要素のモデリング 
 9.5 PID制御 
  9.5.1 制御系の基本的な性質 
  9.5.2 PID制御の基礎 
  9.5.3 PID制御パラメータの役割 
  9.5.4 PID制御パラメータの調整則 
  9.5.5 I-PD制御 
  9.5.6 PID制御の実装 
  9.5.7 制御性能の評価 
 9.6 プロセス制御の実際 
  9.6.1 制御の目的 
  9.6.2 様々な制御方式 
  9.6.3 計装制御システム 
 9.7 コントローラ設計の実際 
  9.7.1 プロセス特性と制御動作 
  9.7.2 チューニングの指針 
  9.7.3 チューニングの実際 
 9.8 蒸留プロセスの制御 
  9.8.1 制御目的 
  9.8.2 制御ループ構成 
  9.8.3 基本制御方式 
  9.8.4 アドバンスト制御 
  9.8.5 P&ID 
 9.9 総合演習 
  9.9.1 制御ループの設計 
  9.9.2 トラブルシューティング